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Channel: 愛媛新聞
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待つ人のため毎日出航 離島新聞配達

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 6月中旬未明、愛媛県松山市の高浜漁港。静寂に包まれた中でヘッドライトの一筋の光が差し込み、朝刊を積んだトラックが到着した。準備万端といった風情の男性が、朝刊の束を包んだビニール袋をてきぱきと船に積み始めた。作業を終えるとすぐに船を動かし、漆黒の海へ繰り出す。興居島方面へかじを取った。 「今日は波が穏やかじゃわい」。松山市高浜町6丁目の沖野安夫さん(74)は、巧みに船を操り、一刻も早く新聞を届けようと先を急ぐ。 水平線にうっすらと、島影が見えてきた。興居島の泊港では配達員が桟橋で到着を待っていた。船をピタリと横付けした沖野さんは「朝は忙しいなあ」などと声を掛けながら、新聞が入った袋を次々と渡していく。渡し終えると即出航。同島の由良港、続いて中島の大浦港、睦月島へ。息つく間もない。 親類の後を継ぎ、中島方面へ新聞を届け始めて30年。休刊日以外は毎日、時間と戦いながら新聞を届ける日々だ。台風や濃霧など海の環境は厳しいが「休んだのは合わせても1週間足らず」。悪天候も、体調がすぐれないときも、長年の経験と腕でカバーし、出航してきた。医師に入院を勧められた時は「毎日病院に通うから」と説き伏せた。 「新聞は汚さず、できる限り早く、毎日途切れずに届けてこそ価値がある商品。自分にしかできない仕事をしたい」。意地と誇りがいつも胸にある。潜水作業員や漁師といった海の仕事に関わって60年。「海のことは体で覚えている」。思い通りにならない自然相手の仕事は「命懸け」だ。確かな判断と操船技術がなければ、務まらない。 島の人から「台風で、今日はさすがに来とらんじゃろうと思って起きたら、ちゃんと届いとった」と言われるのがうれしい。「島で新聞を待っている人のために、少しは役に立っとるかな」と沖野さんは照れ笑いした。 県内154の愛媛新聞の販売店では計約3000人の従業員が販売業務に携わり、トラックやバイク、自転車、徒歩と多くの手でリレーをしながら、今日も読者の元に新聞を届けている。

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